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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
双子の兄を信用しているから、その投資内容も確認しなかったし。
最悪 戻って来なくても、後腐れ無い金額を預けたとはいえ。
(クリス……。一体、何してるんだろう……)
確認したいような、そうで無いような。
微妙な表情を浮かべ、『美しきかな錦鯉』の背表紙を指先で撫でながらも、別に不安には思っていない。
ヴィヴィにとっては “身の回りの世話をしてくれる執事” である朝比奈だが、
今や、クリスにとっては “ビジネスの片腕” となっている。
元々、双子のお目付け役 兼 乳母(?) 兼 執事 の朝比奈が、
日本と英国で離れていた間も、その全てに関与していたのだから、
確実に、違法な事には手を染めていない筈。
それに、クリスは “フィギュア命”。
選手生命を断たれる様な醜聞を、この頭の良い 出来た兄がする筈も無かった。
「それで……?」
PCから ちらりと視線を上げ、来訪の要件を促したクリス。
また視線を落とし、瞳と両手は忙しなく働かせてはいるものの、
意識はちゃんと、妹へと向けてくれているのは解かり。
ヴィヴィはようやく、薄い唇を開き、要件を口にした。
「私、お兄ちゃんの愛人になった」
芯のある声音が発した言葉に、キーボードを叩いていた微かな音が途絶え。
そして、沈黙が降りた、広い部屋。
ヴィヴィは真っ直ぐ、クリスを見つめていたけれど、
クリスはずっと、PCに視線を落としたままだった。
しばし、固まった様に微動だにしなかったクリス。
やがて、細く嘆息を零すと、また瞳と指先を働かせ始める。
「それは “ヴィヴィが望んだこと” なの……?」
こちらを見もせず、問うてきたクリスに、
「うん。自分で決めたの」
そう答えたヴィヴィの声は、まるで自分に言い聞かせている様なそれ。
「そう。分かった……」
短く了承した兄は、傍に放ってあったヘッドセットを装着し、PCでどこかへ電話を掛ける様だった。