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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    

 だが、

「……怒らないの?」

 当惑した様子で尋ねたヴィヴィに、今度は大きな嘆息を零したクリスは、すっと顔を上げた。

「怒って欲しいの?」

「………………」

 自分と酷似した灰色の瞳に、宿っていた感情は――落胆。

「周りに叱られて諦められるような想いなら “僕の妹” は罪に手を染めたりしない」

 きっぱり「甘えるんじゃないよ」と、言外に切り捨てたクリスに、

 ヴィヴィは己の弱さから目を逸らす様に、ゆっくり大きく一つ瞬きした。

「私 “ここ” 出るね」

 兄を訪ねた、もう一つの要件を口にした妹に、

 対するクリスは、今度こそ過敏に反応した。

「……帰国するってこと……?」

 いつも無表情の小さな顔に、明らかに浮かんだ緊迫の色。

 どうやら、匠海と “より” を戻すヴィヴィが、日本に戻ると勘違いしたらしい。

「まさか……。私の生活基盤は、もう “ここ” だもの」

 金の髪を揺らしながら、小さくかぶりを振ったヴィヴィは、再度自分に言い聞かせる。

 スケート、大学、そしてあらゆる生活の全て。

 自分はこの “オックスフォード” に腰を据え、生活してきた。

 ここから動くつもりもないし、必然性も感じていない。

 ただ、この屋敷から出る必要性は認識していた。

 渡英したばかりは、双子と新たな執事だけだった、寂しい新天地での生活も、

 幸いな事に、ダリルという愉しく聡い同居人が加わった事で、豊かなものになっていた。

 そして今や、幼い頃から双子を知る執事も仕えてくれている。

 だからもう、クリスはヴィヴィが居なくても寂しくない筈。

 そして、こうなってしまっては、

 兄は自分の顔をも、見たくない筈――。

 だから、

 2日前にカレッジ・オフィスで、寮の空き状況を問い合わせ。

 先程、届いていた書面で「貴女1人なら、1週間後から受け入れられる」との返答を得ていた。

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