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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
『どうせ、ヴィヴィは また傷付く』
その一言に込められた意味を、ヴィヴィはちゃんと解かっていた。
匠海が1年半越しに言い寄って来たのは、ただの気まぐれ。
昔の女に再会したら、まだ相手が未練タラタラで、
ちょっと突けば、関係修復出来そうだったから、
安易にその尻を追い駆けただけ。
妻子にバレたり、
妹に飽きれば、
また捨てればいい。
匠海にとっては、単なる暇潰し。
新婚生活にも慣れ切ってしまい、
ちょっとしたスリルを “リスクの少ない女” に求めた。
ただ、それだけ――。
細い鼻から ふっと息を漏らしたヴィヴィは、微かに肩を竦めて同意する。
「ううん。私もそう思うよ」
「そうなったら、ヴィヴィは “僕のところ” に、戻って来る……」
「………………」
「だったら、一時的に離れるなんて、馬鹿馬鹿しいと思わない……?」
自分と瓜二つの細い顎を上げながら、
醸し出す雰囲気でも「馬鹿馬鹿しい」と嘲笑って見せるクリス。
そんな痛々しい兄の振る舞いに耐えられず、妹は逃げる様に視線を逸らす。
『そうなったら、ヴィヴィは “僕のところ” に、戻って来る……』
戻って来る?
“僕のところ” に?
そのセリフがどれほど、妹を甘やかしているかという事に、
この “人の良過ぎる兄” は、果たして気付いていないのだろうか。
「……そう、かもね」
擦れた声で了承の意を示した妹に、
「もう話は終わりだ」と宣告する様に、『盆栽と私』を手に取り、
またPCに向き直ったクリス。
流石に長椅子から腰を上げたヴィヴィ。
しかし、ふと疑問を抱き、
「ねえ、クリス?」
静かな声で呼び掛ける。
「ん……?」
PCに視線を落としたまま、手短に相槌を打つ双子の兄に、
「私のこと、好きなの?」
そう、思ったままを口にしていた。
軽やかなブラインドタッチの音が途切れ。
そして、
ゆっくりと顔を上げた男は、
真っ直ぐに、目の前の女の瞳を射抜く。
「愛しているよ」
凛とした声音で、気持ちを吐露してくるクリスとは真逆に、
相対するヴィヴィは、心も頭も空っぽだった。