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第8章 　 　

　９月１４日（木）。

　英国・ガドウィック空港から、イタリア・ヴェローナ空港へと、発ったヴィヴィは、

　２日後の９月１６日（土）の夜、Opera　on　ICE２０２３に出演した。

　昨年、渡英後にOpera　on　ICE２０２２に初出演し、今年で２回目の参加となるそれは、

　他のアイスショーから抜きん出て、規模も迫力も圧倒していた。



　古代ローマ遺跡の野外劇場。

　その星空の下、オペラ観劇が出来る、アレーナ・ディ・ヴェローナ。

　オーケストラの生演奏と、混成合唱団・ソリストの歌声に乗せ、

　世界選手権の表彰台・常連レベルのスケーター達が、氷上で鮮やかにオペラを舞う。

　開催する度に満員御礼となる、１万人以上の観客に対してだけでは無く、

　その映像は、世界４０カ国　計６００の映画館でも、上映されていた。

　ちなみに、

　昨年のヴィヴィの演目は、下記の通り。

１部　戯曲「サロメ」より　
　　“ああ！　私にキスさせてくれなかったわね”

２部　戯曲「サロメ」より　
　　“7つのヴェールの踊り”

　“7つのヴェールの踊り”　は　もちろん、１５歳で五輪金に輝いたプログラムを　そのまま演じ、

　“ああ！　私にキスさせてくれなかったわね”　は、「サロメ」で最も有名なアリアを、ヴィヴィ自身で振付けたものを演じた。

　特筆すべきは　“ああ！　私にキスさせてくれなかったわね”。

　預言者ヨカナーンの生首を抱いて、滑ったヴィヴィが、


「ああ。ヨカナーンや。

　わたしは　お前の口に接吻しましたよ。

　お前の口に接吻しましたよ。

　お前の唇は苦い味がするのね。

　あれは血の味なの。

　いや。ことによったら恋の味かも知れぬ。

　恋は苦いものというから。

　そんな事はどうでも好い。

　ヨカナーンや。わたしはお前の口に接吻しましたよ。

　お前の口に接吻しましたよ――！」


　上掲の、サロメの生歌声に乗せて滑り。