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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
(ウサギさん、いいなぁ……。私も、お兄ちゃんの黒髪を封じ込めた藁人形が――じゃなかった、お兄ちゃんの代わりになるもの、欲しいなぁ)
そして、それを手にした暁には、夜の森に分け入って五寸釘を――じゃなかった。
ぎゅっと抱っこし、兄と一緒にいる気分になり、ベッドで一緒に眠ったりなんかすれば。
会えない、触れられない淋しさが、少しは癒されるかも知れないのに。
薄い胸の奥、そんなセンチメンタルな想いに浸っていると、
『おっと、そろそろ出社しないと』
腕時計を確認し、そう切り出した匠海に、
「あ、そっか。えっと、行ってらっしゃい」
ついつい長話をしてしまったと気付いたヴィヴィは、これから会社に向かう兄へ、軽く手を振った。
『うん、行ってくるよ。おやすみ、ヴィクトリア。愛しているよ』
「ん……、おやすみ、なさい」
縫いぐるみの手が振られながら、通話は切断され。
途端に静けさを取り戻した私室に、ヴィヴィは細い眉をハの字に下げる。
つい数秒前まで、この長方形のタブレットの向こうに、最愛の兄がいたのに。
「………………」
面と向かって会えない。
暖かくて広い胸に、抱き締めて貰えない。
兄の黒髪を撫でてあげられない。
もちろん、
この身に、その熱情を受け止める事も――
匠海と最後に会ってから、もう半月という日が経過していた。
(……って、寂しがっても、会える訳じゃ、ないん、だけ、ど……)
秋から冬へと移ろい行く季節に、夜の冷え込みも厳しくなり、
白いキングサイズのベッドの中に、もそもそと潜り込んだヴィヴィ。
ベッドサイドのランプの明かりを弱め、目蓋を瞑れば。
今頃になって ふと、小さな頭の中に疑問が浮かぶ。
(あれ……? こっち、金曜の23時って事は、日本、土曜の7時くらいの筈、だけど? 会社、忙しいのかな?)
羽枕の上の金色の頭を傾げるも、以前から休日出勤をしていた兄に、その疑問も直ぐに立ち消え。
NHK杯のリハで疲れていたヴィヴィは、その10秒後には、夢の世界へと旅立っていたのだった。