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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
生後11ヶ月のその子は、12時間半も飛行機に揺られて疲れたのか、ぐっすりで。
こんな小さな生き物が、もう飛行機に乗れるのかと、その事に新鮮に驚いてしまう。
「ほうら匠斗、ヴィヴィ叔母ちゃんに “初抱っこ” して貰いましょうね~~、って寝てるけれど」
初孫にでれでれの母を、少し気持ち悪いと思いながらも、ヴィヴィは焦る。
「えっと……、私、赤ちゃん、抱いた事……」
「何言ってんの? サラの弟のジムなんか、生まれた時からずっと抱っこしてきたでしょうが」
確かに。
自分と同い年の、母方の従姉のサラ――その7歳下の弟は、従兄弟達の中では最年少で。
8歳の頃のヴィヴィは赤ちゃんが珍しくて、暇があればずっと抱っこしてあやしていた記憶が甦る。
やや押しつけられた感じで自分の腕に託された匠斗を、ヴィヴィはおっかなびっくり抱っこする。
「………………」
この子が、匠海の子供。
10kg近くあるらしい重みに驚きつつも、
全く兄との共通点を見出せないその小さな顔を、しげしげと見つめる。
匠海と、
その妻の、瞳子の子供。
あの時の自分がどれだけ望んだとしても、兄にあげられなかった――究極の宝物。
「良かったな、匠斗。ヴィヴィに抱っこして貰えて」
斜め前に座る匠海の声が、心底幸せそうなそれで。
「………………っ」
薄い胸を形作る肋骨が痺れて。
その中の心臓はもっと痺れて、
軋んで痛みさえ訴え始めていて。
けれど、自分の腕の中で眠るその子は “違う”。
少し蒸れているのではと思うほど、体温が高くて。
掌で支えたお尻は丸っこくて。
信じられないくらい柔らかくて。
何もかもが小さくてぺちゃんこで、丸みを帯びたその子からは、
幸福の薫り――がした。
それが、あまりにも自分とは違い過ぎて。
懸け離れ過ぎていて。
自分に触れていたら、この小さく瑞々しい命にまで、何かが染ってしまいそうで。
途端に、胸の奥がざわざわと騒がしくなる。
(もう、二度と、この子に触れたくない……っ)