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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    

 一方、

「冬……かぁ……」

 ぼそりと呟いたヴィヴィはと言えば、その表情も脳内も、爽やかには程遠かった。

『ヴィクトリア? どうした?』

 不思議そうに、画面の向こうから問うてくる兄に、ヴィヴィは へらっと誤魔化し笑いを浮かべる。

「ん……何でもない」

(ふはぁ……。秋とか冬とか、寒くなると、人肌……恋しくなっちゃうんだよね……)

 というか。

 もはや “人肌だけ” じゃ、満足出来なくなってきたヴィヴィは、

 また例の “性欲の塊” 状態へと、日に日に近付いてきていた。

(あ゛ぁ~~っ お兄ちゃんに、身も心も愛されたいよぉ……。てか、気持ちイイ事、いっぱいしてあげたいの……。ぐすん(´;ω;`))

『ふ……。「何でもない」って顔じゃ、無いけどな?』

 そう簡単に見透かしてくる匠海に、ヴィヴィは「う゛……」と唸り、

 しかし、唇をへの字にして耐えた。

(だって……。「ぎゅう って、して欲しい」って言ったって、お兄ちゃん、困らせちゃうだけだし……)

 情けない表情を浮かべる妹にも、兄は嬉しそうに微笑む。

『ヴィクトリア?』

「ん?」

『もうすぐだよ』

 兄の柔らかな囁きに、余計に郷愁を誘われて。

「……うん」

『もうすぐ、会える』

 そう。

 明日には日本へ向けて、英国を発ち。

 そして、3日後のジャパン・オープンと(同日開催の)カーニバル・オン・アイスを終えれば。

 きっと、匠海と会える時間も持てる筈――。

「ん……」

(そうだよ。あと、数日、我慢すればいいだけ……)

 自分に何とか言い聞かせ。

 兄に心配を掛けぬ様、最後に笑顔を浮かべようと、ひょいと小さな顔を上げたヴィヴィ。
 
 しかし、

『だから、そんなに「お兄ちゃんに、逢いたいよぉ」って号泣しないで?』

 画面の向こうから、面白そうにからかって来た兄に、

「……してないやいっ!」

 思わず突っ込んだヴィヴィは、更にしょぼくれたのだった。

(どうせぇ……。私ばっかり「会いたい」って、思ってるんだもん……。ちえっ)

 しかし、その通話後。

 僅か20秒で夢の国に旅立ってしまった、結構 能天気なヴィヴィなのだった。








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