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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章    

 止まっていた手を動かし、フィルターをセットしたそこに、挽き終えた豆を入れ。
 
 その時になって、湯を沸かす工程をすっかり失念していた事に気付く。

 ウォーターサーバーから熱い湯を用意し、

 ガラスのサーバーに浸み落ちていく、黒い液体を見下ろしていた。

 いつもは歌声が弾む工程も、今日はただただ逃げと、気持ちを整える為のもので。

 少しずつ体積を増やしていく漆黒の液体に、

 指の関節の間が、何故かむず痒く感じ始めて。

 それを紛らわす様に握り締めた指先が、白く震えていた。

 兄は、

 匠海は、

 欲していた自分の子供を手に入れて、

 そして、

 その子供と家族を守る為に、既に歩み始めていた。

 なのに、
 
 自分は、

 馬鹿でのろまな自分は、

 何時まで経っても、同じ場所に足踏みばかりしていて。

 そして、

 月日が経っても、

 髪の色を元に戻しても、

 失っていた笑顔を取り戻しても、

 その心の奥底は、

 出口を見失ったまま、

 “真っ黒いまま” だった――。







 まだランチを採っていなかった双子に対し、他の面々はここに着く前に済ませて来たらしく。

 オックスフォード大学のOBである父が、

「出身のカレッジを見に行きたい! パンティング(舟遊び)もしたい!」

 そう駄々を捏ね(?)始めたので、双子以外は出掛ける事となった。

「あ、今日はここに泊まるから」

 ソファーから腰を上げたジュリアンが発したその言葉に、

「……は……?」

 そう反応したのは、ヴィヴィ1人だけで。

「なによぉ~、いいでしょ? 部屋いっぱいあるんだから。てか、その為に “こんなに広い家” 借りてるんだからね!」

 母のもっともな言い分に、援助して貰っている身としては、ぐうの音も出なくて。

「……夜、リンク行くからね……」

 何とか逃げ場を確保したヴィヴィに対し、

「ああ、ショーンコーチには、連絡しといたから」

「え?」

 母の言葉にきょとんとする娘。

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