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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    

「え? お風呂、手伝うよ?」

 きょとんとした妹に、兄は軽く首を振る。

「五十嵐がいるから、大丈夫……」

 最初から、そのつもりだったのか。

 居心地の悪い家族団欒の場から、逃げる口実を与えてくれた双子の兄に、

 爪先立ちで背伸びしたヴィヴィは、滑らかな頬に軽く唇を押し当てた。

「……おやすみなさい……」

(クリス……ありがとう……。

 そして、ごめんなさい……)

 口に出すことさえ おこがましい、謝礼と謝罪を言外に付け加え。

 そうして、踵を返したヴィヴィは、左隣の自室へと足を向ける。 





 不倫をし、

「罪悪感に押し潰されそう」

 そう泣き言を零す、甘ったれた愛人は、

「ごめんなさい、ごめんなさいっ」

と必死に謝りながらも、

 不倫相手の妻子と、

 周りの裏切った人間を、

 殴り続けているに、他ならず――



「罪悪感など、有る訳が無い」

 そう のたまう、畜生な愛人は、

 表情ひとつ変えず、

 あるいは、ケタケタ嗤いながら、

 不倫相手の妻子達を、

 同様に殴り続けている――



 要するに、

 どちらにしても “殴り続けている” ことには相違無い。





 そう、解かっていて――



 自分はこれから、不倫相手を迎えるべく、

 身支度を整えようとしている、

 そんな ろくでなし だったりするのだ。








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