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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    

 22時前。

 バスタイム後の日課である、ハーブティーを愉しんでいたヴィヴィの前に、

 その人は予想通りに現れた。

「匠海様。バスの準備は整っておりますので、いつでもどうぞ。それとも何かお飲みになられますか?」

 妹の傍に控えていた、五十嵐の言葉に、

「いいや。もう充分 頂いたよ。ヴィヴィのご機嫌伺いをしたら、バスを使う」

 そう返した匠海は、白革のL字ソファーに腰掛ける妹の傍へと、長い脚で悠々と近寄って来る。

「五十嵐。私、これ飲んだら、もう寝るね」

 ガラス製の細いマグカップを、持ち上げて見せたヴィヴィに、

「畏まりました。お二人とも、お休みなさいませ」

 察した執事が、そう辞去の言葉を吐く。

「おやすみ」

「今日もありがとう。おやすみなさい」

 兄妹の就寝挨拶に目礼した五十嵐は、静かに退室して行った。

 途端に、水を打った様な静寂が降りた、白く広いリビング。

 きしりと軽い革音を立てながら、隣に腰を下ろした匠海は、既に兄の顔ではなかった。

 昼前。

 25日ぶりの再会を果たした時には、完璧に “篠宮家の長男” の仮面を被っていたくせに。

 若干 非難の意味も込めて、大きな瞳に力を籠めるも。

 受け止める方の兄はと言えば、

 「妹の吐息ひとつとして俺の物」と言いたげな熱心さで、ヴィヴィを見つめていた。
 
 一方、ヴィヴィはと言えば。

「………………」

(なんだかなぁ……、なんでこんなに、見目まで良いんだろ……)

 青みの強いオックスフォードシャツに、グレーのベストと細身パンツ。

 シンプルなのに、肩幅の広さ・逞しいのに引き締まった腰・脚の長さ、を存分に惹き立たせるコーディネートは、

 一種、殺意さえ覚えそうな程、兄に良く似合っていた。

 妹がそんな事を小さな頭の中で思っているなど、露知らず。

 両腕を持ち上げた匠海は、卵形の輪郭を ふんわりと包み込んでくる。

 その掌の熱さに思わず、夜着に包まれた両肩が びくりと跳ね上がって。

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