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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
バスタオルの巻き目に添えた手とは反対の手を、匠海の掌に載せた途端。
「きゃっ」
細い手首を掴んだ兄は、己の方へと強引に引き寄せてしまった。
そこには、温かい湯が降り注いでいたのに。
「ヴィクトリア。待ってられなかったのかい?」
徐々に濡れて重くなっていくバスタオルに、気を取られながらも、ヴィヴィは素直に頷く。
「ん……」
「ああ、俺の可愛い “恋人さん”。 大好きだよ」
兄の口ぶりと同じく、長い腕が うっとりと、華奢な躰に巻き付けられ。
その囲いの中で、ヴィヴィは乾かしたばかりの髪が濡れるのも構わず、厚い胸に顔を埋めた。
本当は、言われた通り。
匠海の寝室で待っていよう、と思ったのだ。
思った――けれど。
その気持ちは1分とて、持たなかった。
兄のベッド。
それは、数え切れないくらい、何度も愛を交わした場所。
その記憶は今も、心と躰の奥深く、鮮明に残っている。
だが、現在は違う。
今や、あの場所は、
“自分とは違う女” のもの――
そう思い始めると、
誰も居ないそこに、1人でいる虚しさに、耐えられ無くなってしまって。
「バスタオル1枚のヴィクトリアも、とても色っぽいけれど」
そんな前置きと共に、ぐっしょり濡れたタオルを剥ぎ取った匠海は、
生まれたままの姿になった妹を、愛おしそうに抱き締める。
「ずっと、こうしたかった……」
「……っ わたし、もっ」
兄妹の白い肌を叩く、暖かな雨粒。
ただ素肌を重ねるよりも、水という媒体を介しての方が、
より一層、密着度が増した気がして。
恐ろしいほど高鳴る心臓を誤魔化す様に、細い両腕で必死に兄を抱き締めたヴィヴィは、
躰の芯から沸き上がる幸福感に、涙が零れそうになるのを、何とか押し留めていた。
どうしよう。
どうしよう。
幸せ――だ。
この人に抱き締められるだけで、
天にも舞い上がりそうなほど――