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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章
「6連符と7連符の違い、意識して……」
クリスの指摘に、ヴィヴィは途端に眉をハの字にする。
「う~~……っ クリスから6連符で受け取るから、ごっちゃになっちゃう~っ」
ヴァイオリンとチェロの掛け合いが、素晴らしいこの曲。
クリスが6連符+6連符で駆け上がってくるのを、ヴィヴィが6連符+7連符で下がるのだが。
そのような掛け合いが五万とあるので、どうしてもゴチャゴチャになってしまう。
何度かクリスの前で弾いて見せてOKを貰うと、今度はそこから合わせ始める。
だが20秒後。
今度はヴィヴィが、流れを止める。
「ね~ね~、クリス。pp(ピアニッシモ)からのspiccato(スピッカット)、前のmarcato (マルカート)ともっと対比させたくない?」
クリスの譜面を、弓の先でチョンと指し示したヴィヴィに、
「同じこと、言おうとしてた……」
そう同意したクリスが、赤鉛筆で該当箇所を丸で囲む。
「うふふ」
顔を見合わせ、また奏で始め。
気になったところがあれば互いに指摘し合い、試行錯誤を重ねていく。
「そのpizzicato (ピッツィカート)の和音、もっと響かせてみようか……」
「こう?」
3音の和音を指で弾かせるヴィヴィに、クリスが満足そうに頷く。
「うん、いいね……」
そうして創り上げられていく、1つの音楽。
小さな頃から こうして楽器に触れ合ってきた双子は、
音楽の好みの傾向、ダイナミクスの付け方、曲の解釈が似通っていた。
そして、互いの癖も熟知していた。
6分半ほどの曲を頭から通し直せば。
「ぱちぱちぱち」と可愛らしい拍手の音が、双子のデュオを湛えてくれる。
弓を下して振り向けば、五十嵐に小さな両手を取られた匠斗が、焦げ茶色の瞳をこちらへと向けていた。
―――――
※原曲は、ヴァイオリンとヴィオラの曲
※スピッカット:弦楽器の奏法。弓を弾ませる歯切れのよいスタッカート
※ピッツィカート:弦を指ではじく弦楽器奏法