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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章
15時を過ぎた頃。
松濤のリンクへと到着したヴィヴィは、愛車を運転してくれたクリスと一緒に、裏口から建物へと入ろうとし。
ふわりと鼻腔を擽った甘い香りに郷愁を誘われ、香りのする方へと視線を向けた。
(そっか、もう秋、なんだもんね……)
予想通り、オレンジの小花を沢山付けた金木犀が、視界に入り。
その瞬間、小さな頭の中に思い起こされたのは、
今朝、早朝練習後に、数社の取材を受けた時の記憶――
『昨シーズンは、篠宮選手にとって、心身共に大変なシーズンだったと思います』
女子アナのフリに、テレビカメラの前、
微かに瞳を伏せたヴィヴィが、言葉を選ぶように慎重に口を開く。
『……そうですね。結果が付いて来なくて、中々思うように行かない時もあったのですが。コーチをはじめ、沢山周りの人々に本当に助けて、支えて貰って……。やっと、「今、ここに立ててる」のかなって思います』
『辞めたいと思ったことは――?』
その問いは、19歳の時に表彰台にも昇れなかった、ミュンヘン五輪後、
耳にタコが出来そうな程、何度も投げかけられた問いで。
その時も、いつもと同様、適当に流そうと思ったヴィヴィ。
しかし、
『それは、無いです。ただ……「辞めないと」と思ったことは、正直あります』
口をついて出たのは、そんな言葉だった。
多分 自分の中で、その事実をある程度まで消化出来て。
だから、そう――。
話しても大丈夫な時が、来たのだろうと思う。
案の定、目の前の女子アナは、瞳を真ん丸に見開いていた。
『それはまた……、初耳です。いつ頃、そう思われたのですか?』
驚きを隠しきれない相手に対し、ヴィヴィはどこか冷静だった。
―――――
※ちなみに作者は、金木犀と沈丁花を長い間 勘違いしてた
作者「金木犀って、あの小っちゃい白い花っしょ?」
旦那様「え? オレンジだよね?」
作者「え? うそん……」