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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章       

『ん……と、17歳の時……ですね』

 指折り数えて答えれば、

『え……? 金に輝いた平昌五輪から、大して経っていない頃じゃないですか!?』

 きっと女子アナは「ミュンヘン五輪で大敗した時」という答えを、期待していたのだろうと思う。

 だとしたら、結構なスクープになっただろうに。

 困ったように微笑んだヴィヴィは、成るべく明るく聞こえるように おちゃらけた。

『私、すぐ一杯いっぱいになって、勝手に一人で思い詰めちゃうんですよね。で「あ、私、もう辞めなきゃっ」って』

『それはまた。よくぞそこで、考え直して下さいました』

 興味津々に掘り下げてくる女子アナに、

『結局、そんな私の目を覚まさせてくれたのは、やっぱりクリスで……。兄には本当に、頭が上がらないんです』

 ヴィヴィはそう真実を述べ。

 日本代表ジャージに包まれた、華奢な肩を竦めてみせたのだった。



 17歳の9月の最終週――。

 葉山の別荘で、匠海に愛を囁かれた自分は、破綻を来たし。

 自分の根幹を成すスケートを、自ら手放そうとした。

 そんなヴィヴィを、クリスは担いでリンクへ連れ戻し。

 愚かな思い込みから、目を覚まさせてくれた。



 そして、

 それから ちょうど4年後の今。

 自分はまたしても、大切な双子の兄の手を、煩わせている。



『……私……、お兄ちゃん、の……、だよ、ね……?』



 昨夜。

 薄氷を踏む思いで問い掛けた言葉が、脳裏を過ぎる。



『……そうだよ……。お前の全ては、俺の物だ』



 ただの口約束。

 それも、

 都合のいい、不倫男の口からのデマカセ。



 そんな物に、今更 縋り付いて。

 これから60余年はあるであろう “己の人生” に、

 ほんの少しでも、愛する男の爪痕を残そうと、

 必死になっているだなんて――。

 人間というものは、

 結局は自分本位で、淋しい生き物なのだと、

 つくづく思い知らされる


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