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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章
目の前の男の顔を、強張った掌で撫で降ろす仕草に、
「まるで、誰かと一緒に踊っているような……」
刈谷アナの戸惑った様な声。
「ええ、男性の姿を意識した振付らしく。だから彼女はどうしても、タンゴダンサーの振付けにこだわったそうです」
「このような繋ぎの演技も、非常に高く評価されている篠宮」
弦楽器のスピッカート(跳弓)が印象的な間奏部。
「ポイントが1.1倍となる演技後半に、ジャンプを2つ予定しています」
助走から飛び上がったのは、コンビネーションジャンプ。
「3回転ルッツからの……3回転トウループ」
見極める様に慎重に発した荒河に、
「ミスの許されないSPでは “2本目のジャンプはループにはしない構成” です」
刈谷アナが注釈を加えた。
コンビネーションを、余裕を持って着氷したヴィヴィは、
左手は胸前、表面と水平に掌をぴんと伸ばし、右手は架空の男とホールドを組み。
再度、第二主題の冒頭「ザ、ザッザッザン」に合わせ、激しく前後に首を振る。
そして、タンゴを踊る様に素早く駆け出し、推進力を得ると、短いケリガンスパイラルへ。
ロッカー、カウンター、スリーと踏み分け、最後のジャンプを踏み切る。
「ステップからの3回転フリップ。綺麗に決まりましたね」
「素晴らしい! ジャンプ3つ、全て降りました。そして残す要素は、スピン2つ――」
感嘆の声を上げる刈谷アナと、場内の大歓声。
―――――
※スピッカート:弓を跳ねさせて演奏する方法
※ケリガンスパイラル:アラベスクから手でフリーレッグの膝近辺を掴んで行うスパイラル
※ロッカー・カウンター:前→後or後→前へ向きを変えながらS字を描くターン
両者の違いは向きを変える際、最初のカーブと同方向回転(ロッカー)か異方向回転(カウンター)か
※スリー:前→後or後→前へ向きを変えながら3(three)を描くターン