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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章
「フライングキャメルスピン」
最後の間奏に乗せ、ジャンプから入ったのは、
上体を仰向け、フリーレッグの膝を曲げた状態で行うバトン・キャメル。
「最後の要素、レイバックスピン……」
上体を反らせたレイバックから、フリーレッグを掴み、パールスピンへ。
そして、最近は両手で行っていたビールマンを片手で、しっかりとしたポジションで回りきった。
「パールスピンからの、片手ビールマン……。ワンハンドはジュニアの頃にやっていましたが、また新たな取り組みとして挑んでいますね」
全くスピードの衰えないスピンに、またもや大きな拍手が起こり。
ソロヴァイオリンと、オーボエ、バスクラリネット。
その郷愁を誘う掛け合いの中、
上目使いに前を睨み、片手でポンと男の胸を押し返す。
左手を顔の前にかざし、右腕は後ろへ、右脚は前へと高く振り上げたヴィヴィは、
最後を締め括るオケの劇的な音色に合わせ、前へ上げていた右脚を振り降ろし。
その反動で、反り返った後頭部より更に上まで振り上げた、右のスケート靴。
シルバーのブレードが、氷の屑を散りばめながら、鈍い輝きを放っていた。
一瞬の静寂ののち。
広がったのは、場内を震撼させる大歓声。
「試行錯誤だった昨シーズンとは、格段に違う安定感、完成度――」
『篠宮 ヴィクトリアさんの演技でした』
場内アナウンスと共に、ほっとした表情のヴィヴィが、四方へと深い礼を送っていた。
「再び、氷の上に、そして試合に、笑顔の篠宮が戻って来ました」
しみじみ続ける刈谷アナに、荒河も熱の籠もった声で続ける。
「はい。苦しい時を乗り越えて、より一層晴れやかな笑顔に見えますね」
氷上では、雨アラレの様に降ってくる花を、必死に拾い集めるヴィヴィがいた。
―――――
※パールスピン:キャッチフットレイバックの変形。反らした上体と掴んだフリーレッグで描く形が、真珠貝と真珠に見える