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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
翌朝、7月28日(金)。
いつも通り5時に目覚めたヴィヴィは、普通だった。
ベッドから這い出しても着替えても、気持ち悪さも無く。
頭痛も吐き気も――いわゆる二日酔いの症状というものが、一切無かった。
逆に、いつもより就寝時間が早かった分、ぐっすり眠れて快適そのもので。
「………………」
昨夜、自分の記憶違いでなければ、シャンパンを6杯(フルボドル1本分)は呑んだ。
確実に自分にも “酒飲み遺伝子” が受け継がれている。
喜ぶべき事なのか、それはそれで不幸な事なのか。
判断付かない複雑な心境のまま、ヴィヴィは手早く準備を済ませ、扉を開錠して部屋を出た。
静まり返った屋敷の中。
昨日押し掛けて来た家族を起こさぬ様、ヴィヴィは足音を極力殺しながら階下に降りた。
その途端、どこかから漂ってきた香ばしい香りに、微かに首を傾げ。
キッチンへと続く戸口に、頭だけを突っ込んだ。
「クリス? 珍しいね、朝から自分でコーヒー入れるなん……」
頭を巡らせながら、そう声を掛けるヴィヴィの視線の先、
「ヴィヴィ」
そう、愛おしそうに自分の名を呼んだのは、他でもない。
匠海――その人だった。
「……――っ」
互いの灰色の瞳がばちりと合い。
「絶対に兄の顔だけは見るな」と自分に言い聞かせていた約束事を、ヴィヴィは簡単に違えてしまった。
日本と9時間もある時差ボケで、目が覚めてしまったのか。
起き抜けのその人の黒髪は、毛先が少し跳ねていて。
くっきり二重の切れ長の瞳は、どこかまだ眠そうで。
けれど、自分に注がれる視線は、その身を一瞬にして焦がしそうなほど、熱くて。
華奢な全身が心臓になったかの様に、どくんどくんと鼓動を刻み。
全身を巡る血という血が、一瞬にして沸騰した錯覚に陥るほど、かっと躰が火照る。
なのに、
「おはよう、ヴィヴィ。もう行くのか?」
目の前のその人は、そう以前と変わりなく “妹としての自分” に接してきた。
ずきりと鮮明な痛みを覚えた胸に、咄嗟に顔を背けたヴィヴィは踵を返し、
「……もう、帰って……」
蚊の鳴く様な声でそう吐き捨て、キッチンを後にした。