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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章    

 玄関を出れば、庭先に停めてある黒のレクサスの助手席には、既に双子の兄が眠っていて。

 起こさなぬよう静かに荷物を積み込んだヴィヴィは、ゆっくりと車を発進させる。

 毎朝の運転は、ヴィヴィがする事になっていた。

 低血圧気味のクリスにさせるのが少し怖いのと、いつも運転してくれる彼と変われる口実を作りたかったのと、で。

「………………」

 黒革に赤のステッチが映えるステアリング。

 それを握り締める細い指先は、震えを隠しきれていなかった。

(もう、絶対に、見ない……っ 絶対に――っ)

 ほんの数秒しか目にしなかったのに、

 まるで高画質カメラで捉えたかの如き緻密さで、

 自分の網膜はあの人の姿形を読み込み、鮮明に記憶し。

 そしてあろうことか、美化しようとさえしていた。

 静か過ぎる車内に、きしりと革を握り締める微かな音が落ちる。

 全ての情報を頭から追い出したくて、信号待ちで頭を振ってみても、

 意識して記憶から 葬り去ろうとしても、

 自分の脳と、心と、躰は、

 無限に兄の残像を再現し続けていた。

 大きな灰色の双眸が、苦しげに眇められる。

 それ程までに、

 1年3ヶ月ぶりに目にした匠海の姿は、

 ヴィヴィの瞳には、魅力的に映っていたのだ――。
 





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