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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
「あ、はい。その一方、今なお中国には、膨大な農村過剰労働力が存在しているのも、確かでして……」
調べ上げたデータをプリントアウトした、手元の資料に視線を落とす。
「大都市における、いわゆる3K労働者の賃金は、上がっておりません」
数枚のスライドのデータを示し、
「よって、労働過剰経済では、伝統部門(農業)から近代部門(工業)へ、余剰労働が一定の制度的賃金により移転することにより発展する――というルイスのモデルは当てはまる、という結論に至りました」
そして最後に映し出されたのは “クズネッツの逆U字仮説” による検証。
「グラフで見て取れますように、中国における所得分配の推移では、貴州省と上海の格差は、以前はせいぜい5~6倍であったにも関わらず、現在は12~13倍と、所得格差が拡大し――」
おもむろに、ホワイトボードに∩を描いたヴィヴィは、その左隅を円で囲う。
「つまり中国は、クズネッツ曲線の第1局面にあると言えます。更にこちらは、所得分布の国際比較ですが……。例えとして、英国のジニ係数=0.3であるのに対し、中国のジニ係数=0.4」
「う~~ん、ブラジルのジニ係数=0.6ってのは、世界的に見ても不平等だなあ~」
PPE(哲学・政治及び経済学)の同級生である、ウィルフレッド・ベルゼイの指摘に、
「はい。そのブラジルに中国が近付こうとしているのは、非常に異常と思われますね」
そう同意したヴィヴィは、残りのスライドを説明し終え。
加えて、中国経済のサステナビリティ(持続可能性)にまで踏み込んで、エッセーの発表を終えた。
(お、おおおおお、終わった~~……っ)
特に突っ込まれる事も、否定される事も無く終えられた事に、内心胸を撫で下ろしたヴィヴィ。
しかし、
「なるほど。では、雁行形態論での検証は?」
突然 投げ掛けられた、ディナ博士のその問いに、
「あ゛……」
思わず変な声を上げ、絶句した。