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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     

 よって、

(ここは “無視” だな! “無視する” に限るなっ!!)

 そう打開策を見出したヴィヴィは、ぷいと顔を背け。

 あたかも190cmの大男が見えていないとでも言うように、その後ろに控えている朝比奈にお茶を頼む。

 そして、クリスとダリルが静観するリビングを突っ切ると、暖房の行き届いたサンルームに向かい。

 大きなビーズクッションに埋もれながら、昨日のチュートリアルで また駄目出しされたエッセーの、最終チェックを始めた。



 昨年、学部3年生として同大学に編入したクリスは、今の自分の様に死にそうになっている様子は全く無かった。

 オックスフォードのチュートリアルの厳しさは有名で。

 準備の為の徹夜は当たり前、本番の前日は緊張で眠れない夜を過ごす学生も多いというのに。

 双子の兄はそれに加え、株や投資にも手を出していながら、あんな涼しい顔でスケートも熟してしまうのだから。

(……本当に “天才型” は恐ろしい……っ)

 匠海だってそうだ。

 オックスフォードでのMBAの講義と、篠宮證券・ロンドン支店での仕事を両立していたのだから。

 兄2人と自分とは、頭の出来があまりにも違い過ぎる。



 華奢な肩を竦め、内心舌を巻いていたヴィヴィ。

「お嬢様。紅茶が入りましたよ」

 そう柔らかな声で話し掛けられ、はっと我に返り顔を上げれば、

「や~~い、引っかかった」

 超絶美形の顔に、悪ガキの表情を浮かべたフィリップ王子が、茶器を手に にやにやしていた。

「~~~~っ!!!」

 怒りに悶絶し、顔を真っ赤にするヴィヴィにも、

「ははっ 怒った顔も、可愛いなあ、ヴィー」

 フィリップは呑気に笑っていやがる。

「もう……っ!! ちょっと! 私のファンだって言うなら、心中 察してよねっ!」

 ビーズクッションを ぎりぎりと両手で握り締め、ヴィヴィはとうとう心を鬼にする。

 ちなみに、王子は「ヴィーに惚れた」とは言ったが「ヴィーのファンだ」とは言っていないが、この際どうでも良い。

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