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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     

「え、えっと。私、もう図書館で集中したいから」

「解かった。My Honey♡ お勉強頑張って」

 そう投げキッスをしながら、去って行くフィリップに、

「誰が My Honey だぁ~~っ!」

 身体の両脇、両拳を握り締めて反抗する様子さえ「可愛い」と言いたげに、

 瞳を細めた王子が、元来た道を戻って行く。
 
 その均整の取れた後ろ姿を見やるヴィヴィからは、深い嘆息が零れた。

「……はぁ~~……」

(絶対、フィリップには言わないでおこう……。「運命だっ!」とか、言うに決まってるんだものっ)





 そんなこんなな、ヴィヴィとフィリップの攻防戦が3日も続けば、

 ヴィヴィを知る周りの人間は、生温かい目でコントの如き掛け合いを眺めていた。

 セント・エドモンド・ホールの、ウォルフソンホール。

「暖簾に腕押し……」

 久しぶりにランチが一緒になったクリスの、その日本語の呟きに、

「ノレンニウデオシ? どういう意味だい?」

 聴きとめたフィリップが、説明を求めてくる。

「あ~~……。えっと、日本のことわざ……。英語で言うところの「He catches the wind with a net.(網で風を捕える)」って感じ……?」

 大きな掌の中、リンゴを玩びながら答えた途端、目の前の大人っぽい男が、がしっと両手を掴んだ。

「そうなんだよ~。クリスぅ~。なんか良い方法、無いかな~?」

 妹の攻略法なら兄が知っているだろうと、泣き付く王子に、

「……思いつかない……」

 転がっていくリンゴを目で追いながら、ぼそりと呟くクリス。

「がっくし……」

 そんなやり取りを交えながらも、男同士で共通の趣味があったらしく。

 F1談義に花を咲かせる2人の傍ら。

 ランチを食べ終わり、眠気を催したヴィヴィが「ふわわ……」と欠伸を零す。

「おや、添い寝してあげようか?」

 すかさず、そんな茶々を挟んでくるフィリップを、

「……脳味噌、湧いてんの?」

 据わった眼で じと~と睨めば、

 「ぐさっ」と零しながら両掌で胸を押さえた王子に、重厚な構えのホール内では笑いが起こっていた。

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