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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
あのさ。
11月末の夜中の最低気温って、何度か知ってる?
2℃だよ? 2℃。
下手したら、氷点下まで下がったりもするの。
そんな極寒の中、未だ自分にべったりと張り付いている人間と言ったら――
青く大きな玄関扉を、押し開けたヴィヴィ。
途端に身を切りそうな冷気が頬を撫で、グルグル巻きにしていたマフラーに顔を埋める。
そして、その両手に持っていたものを、
「……どぞ……」
言葉少なに差し出せば。
「え? くれるの?」
そう確認して来たのは、1人の男性パパラッチだった。
こくりと頷き、紙コップを乗せた小さなトレイを、ぐいぐい差し出すヴィヴィ。
男がそれを手に取ったのを確認し、ダウンに包まれた両肩を竦める。
「あのですねえ……。私、明日チュートリアルで……。今夜はその準備で、寝られるかさえ分らないのに……」
「張ってても、王子は来ないって?」
パパラッチの問いに、また首肯し、
(てか、この目の下のクマが目に入らぬかぁ~~っ)
水戸黄門の格さん張りに、そう胸の中でのたまっておいた。
暖かな湯気を立てる紙コップを、両手で包み込んだ男。
しかし、一口飲んだ途端、
「てか、薄っ」
そんな不満の声を上げやがった。
「え? うそん……。ちゃんとスプーン1杯、入れたのに」
ダリルが好んで飲むホットチョコレートの粉を、ちゃんと熱湯で溶いた筈だが。
「このコップだと、山盛り3杯は必要なんじゃないか? しかも、ホットミルクで作ってない」
人の好意に遠慮なく駄目出ししてくるパパラッチ野郎に、さすがのヴィヴィも大きな目を眇め。
「……嫌なら返せ(-_-)」
ずいっとトレイを差し出せば、男は白い息を吐き出しながら吹き出した。
「あははっ 有難く頂きます。あったけ~~」
「はぁ……。じゃあ、おやすみなさい」
一応 就寝挨拶を述べ、くるりと踵を返したヴィヴィの背に、
「おやすみ。俺も帰るわ」
そんな言葉を掛けて来たパパラッチ。
ちらっと顔だけで振り返ったヴィヴィは、微かに頷き肯定したのだった。
「懸命なご判断だと思います」