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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
「そうなんだよ。10月から大学が始まって、両立でかなり苦戦していたみたい。昨日の公式練習で見た時、すっぴんだどクマが酷かった」
「まあ、あのオックスフォードですしね。加えて、世界中を驚嘆させた、あのニュース。一昨日のSPは、転倒さえありませんでしたが。演技後半はスピードも落ち、動きも精彩を欠いていました」
前に滑ったSP3位のリーザ・マグノワ(ロシア・15)が、キスアンドクライで得点を待つ映像が映し出される。
「注目すべきは、やっぱりロシアの15歳の新生――マグノワ選手。初出場のこのGPファイナルで、SPではなんとパーソナルベストを更新してきた!」
咽喉の奥で唸り声を上げる、解説のスキーター。
「そして現在、FS 5番滑走の篠宮が、ショーンコーチと 昨日男子シングル1位に輝いたお兄さんに見守られ、リンク上にいます。……ええと、何かしています……」
マグノワの得点がコールされ、会場に わっと歓声が広がる中。
高い天井へ向けて両腕を掲げたヴィヴィが、青シャドーと青マスカラに彩られた目蓋を閉じ。
薄い唇では何かをぶつぶつ唱えていた。
青い衣装に身を包んだその選手を、お爺ちゃんコーチと兄はフェンス越し、生暖かい目で見守っている。
「8年前、15歳の篠宮選手が、GPファイナルを初制覇した時を髣髴とさせる破竹の勢いが、マグノワ選手にはあるね」
会場に向かって大きく両手を振って応えるマグノワから、映像はヴィヴィへと切り替わる。
『Sur la glace, No.5 Le representant du Japon, Victoria Shinomiya,
On the ice,No.5 The representative of Japan,Victoria Shinomiya』
フランス語と英語で名前をコールされる中、ゆったりと氷を蹴るヴィヴィは、
30秒という短い時間で、冒頭のジャンプの踏切を確認していた。
「この後の最終滑走者――SP1位 USAのリーに、どれだけプレッシャーを与える滑りが出来るか。ヴィクトリア 篠宮。日本は東京出身。曲はカール・オルフ作曲『カルミナ・ブラーナ』」
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※カルミナ・ブラーナ
http://www.youtube.com/watch?v=7yWcOx9v58A