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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     


『気まぐれに喜びを与え 人の心を弄び

 貧乏も権力も

 氷のように溶かしてしまう』


 静謐な音楽の中、間髪入れずに飛んだ、

 3回転フリップ+2回転ループ+2回転ループ。

「最後のジャンプ。1ヶ月前のエリック・ボンパール杯では、1回転になってしまったが――」

「頼むっ 回りきってくれっ」

 実況と解説の2人が祈る中。


『おぞましく空虚な運命よ

 お前は回転する車輪のように』


 バックで助走中、片手でフリーレッグの足首を掴み、頭上へと持ち上げ。


『悪意に満ち 幸福を無にする』


 山吹色のスカートをはためかせたのち、それをぽーんと放り。

 そのまま踏み切った、3回転サルコウ。

「Oh~~っ YES! 無事に着氷!!」

 実況のハワードの叫びと、

「どこまでも柔らかな着氷。素晴らしい高さに、鋭い回転動作! 一体どこに、こんな体力残ってたんだろう!?」

 解説のスキーターが、ここまでジャンプがノーミスのヴィヴィを、若干 放心状態で賞賛していた。

 ツイズルから飛び込んで行った、ステップ・シークエンス。

 見るからに苦し気な表情は、険しい中にも何物にも揺るがない強さを湛えていた。


『陰に隠れて 私を苦しめ

 私は丸裸で お前の術中に落ちる』


 左脚での、

 ロッカー → カウンター → カウンター → ブラケット → (右脚)モホーク

 の5連続ディフィカルトを踏み分け。

 ティンパニの激しい打音。

 そして、熱狂していく混声の合唱。


『運命は健やかさも 力強さも奪い

 私を渇望と失望の虜にする』


 金の細鎖を巻き付けた頭を両掌で抱え、右左右と大きく揺れたヴィヴィ。

 もいだ頭を遠くへ放る様に、両腕を振り上げると。

 ウィンドミルやツイズルを挟み、

 今度は右脚での、

 ロッカー → カウンター → カウンター → ブラケット → (左脚)モホーク

 の5連続ディフィカルトを踏み分ける。

「キレの無かったSPとは、雲泥の差があるステップ・シークエンス」

「エッジも深いし、正確だ。昨夜はぐっすりだったのか? 何てタフな子……。ああでも、苦しそうだ」

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