この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
ウィンドミルで締め括ったヴィヴィは、苦しそうに息を乱しながら、氷を蹴る。
『今こそ時をおかず 弦をかき鳴らせ!
運命は強者をも 打倒するのだから』
イナバウアーからキャッチフットスパイラル、背中で両腕を組んだアラベスクスパイラルを素早く熟し。
そして踏み切ったのは、ジャッジ側に身体を向け、
両腕を進行方向とは逆にめい一杯伸ばした、横向きに飛ぶバレエジャンプ。
『皆の者 我と共に嘆こう――!』
ファルセットで謳い上げられる、最後の歌詞。
バタフライから、左軸足のバトンキャメル → シットスピン。
そして、右に軸足を替えてのシットスピン → I字スピン。
小刻みなトランペットとティンパニの音色。
重厚に響き渡る混声と、弦の厚み。
ラスト。
リンクの端。
青く彩られた目蓋を瞑り、両腕を肩高に伸ばしたヴィヴィ。
音の余韻を楽しむ指揮者か はたまた 運命の女神の天秤を模してか。
両の掌を上へと掲げ、4分間の演技の最期を締め括った。
わっと割れんばかりの歓声が上がり。
次いで響いたのは、大音量の拍手。
そんな色めき立つ会場の中、力なく氷に両膝を着いたヴィヴィは、
細い肩を震わせながら、必死に荒い息を整えていた。
「素晴らしい、篠宮! 世界女王の意地を、ここフランスの地で見せましたっ」
実況のハワードの感極まった声音に、
「ブラ~ボ! コンビネーションのアクセルを回避したのは、ショーンコーチの英断だったね。その分ストレスから解放されて、体力消耗も最小限に防げた」
解説のスキーターが、チームにも賞賛を送る。
そしてリンクでは、未だ氷に両手を着いてうな垂れたままのヴィヴィに、
ぞくぞくと花やプレゼントが投げ込まれていた。
「篠宮、中々立ち上がれません。会場はスタンディングオベーション。フランスでも “ヴィヴィ” の愛称で、愛されている選手です」
「ただただ、GREAT! 眼福の4分間だったよ~っ ああ、やっぱり。篠宮選手、英国に欲しいよなあ。もちろん双子セットでね!」