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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     

 ようやく ふらふら立ち上がったヴィヴィが、若干 揺れながら四方に礼を贈っていた。

「今まさに、英国中の国民がそう願っているでしょうね。彼女が滑り出したその瞬間に、広大な会場の空気が一気に張り詰めるんです。美・優雅・技巧・そしてこの大事な場面で纏められる、アスリート魂」

 顔面蒼白状態で異様な量の汗を垂らしながら、リンクを後にしていくヴィヴィと入れ替わりに、

 最終滑走のヴィヴィアン・リー(USA・21)がリンクインする。

「最上の評価を貰ったNHK杯には及ばないだろうけれど、フランス杯は超えるだろうね? これは十分、リー選手にプレッシャーを与えられたと思うよ?」

 解説のスキーターが、興奮した声で喋り続ける中、

 コーチとクリスに両脇を抱えられたヴィヴィは、キスアンドクライのソファーに腰を下ろしても、ぐったりとうな垂れたままだった。

 心配そうにタオルで汗を拭ってやりながら、ぼそぼそと話し掛けるクリスに、

 しばらくし、ようやくヴィヴィがこくりと頷き。

 ゆっくりと上げられた、青白い顔。

 「へらっ」という以外、表現のしようの無い笑顔を浮かべた選手に、

 会場がまた、歓声で騒がしくなる。

 そして、中々コールされない得点に、焦れた様に実況のハワードが続けた。



「さて、最終滑走のリーを残し、どのようなドラマが繰り広げられるのか? 

 テレビの前の視聴者の皆様も、固唾を呑んで一緒に見守りましょう――」
 





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