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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
まるで米俵でも担ぎ上げる様に、娘を肩に乗せたままの父に、
最初は目を白黒させていたヴィヴィも、両手両脚をバタつかせ始めた。
「ヴィヴィ、落っことすから、暴れちゃ駄目だよ」
父のその忠告に、ヴィヴィは心の中で瞬時に突っ込む。
(いや、降ろして欲しいから、暴れてるんですっ)
「ヴィヴィ」
名を呼ばれ、腹筋を使ってぱっと顔を上げると、
目の前に仁王立ちしていたのは、にやあと悪い笑みを浮かべた母で。
「ヴィヴィ、これから1週間。ロンドンのオーウェン家と、エディンバラのワイアット家に「一緒に行く」って言うならば、降ろしてあげてもいいわよぉ~~?」
「んな゛……っ!?」
7月頭、仙台のホテルに滞在中。
ジュリアンからのその誘いの電話に、ヴィヴィは「行かない」と答えたのに。
まさか、実の母が “拘束” という凶行に及んでくるとは夢にも思わず。
目の前のジュリアンを、ぎろりと迫力満点に睨んだヴィヴィだったが、
そうしながらも “母を攻略するよりは、父を懐柔するほうが易し” と瞬時に目算を立てる。
すっと息を吸い込んだヴィヴィは、全勢力を総動員し、これでもかと愛らしい声を発してやった。
「やぁ、降ろしてぇ、ダッド……」
娘の か弱くて甘ったるい、まるで ふわふわのメレンゲの如き懇願の声に、
「~~~っ!? か、可愛い♡ ああ、虐めて悪かったねえ、ヴィヴィ~~♡」
まさかまさか。
グレコリーは簡単に娘の罠に引っ掛かり、地面にすとんと華奢な身体を降ろしてしまった。
(ふふんっ ちょろい、ちょろいっ!)
咄嗟に逃げを打つヴィヴィだったが、
「グ~レ~コ~リ~~ィ~~!?」
地獄の閻魔大王の如き、母の唸り声に、
「ひぃ……っ ゆ、許せ、娘よ……っ」
一体どんな地獄を見たというのか。
心の底からの恐怖の声を上げた父は、今度は娘を横抱きにし、肩と両膝をこれでもかとがっちり拘束してきた。
「………………」
胡乱な瞳で父を見上げながらも、ヴィヴィは篠宮家のピラミッドの頂点を見た気がした。
(そして、間違いないく、BOP(ボトム オブ ピラミッド:最底辺)は自分だな……)