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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章

『篠宮選手。FSを終えて、1位との得点差がたったの0.21でした。その点についてはどう思われましたか?』
昨日、女子FSを終えての表彰式後。
ISU主催で行われた、プレス・カンファレンス。
各国のスポンサー企業の社名が刻まれたボードの前に坐していた、表彰台乗りした女子シングル3名の選手は、
目の前にいる何十人ものメディア関係者と、対峙していた。
『アン……。いえ、リー選手のFSの演技は、まだ見れていません。彼女は彼女なりにベストを尽くしたのでしょうし。私も今 出来る全てを出し切っての、この結果で――』
青テーブルに据え置かれた細いマイクに向かい、そう淡々と発したヴィヴィには、いくつものフラッシュが焚かれ。
『だから、悔いは無いです』
引き締まった表情で言葉を締め括り、マイクのスイッチをOFFにした。
グランプリ・ファイナル2023 女子シングルの結果は、下記の通りとなった。
1位 ヴィヴィアン・リー(USA・21)
SP1位・FS1位
2位 篠宮 ヴィクトリア(日本・21)
SP2位・FS2位
3位 リーザ・マグノワ(ロシア・15)
SP3位・FS3位
結局、ヴィヴィの後に滑った、最終滑走のヴィヴィアン・リーは彼女らしい安定感を誇る、素晴らしい演技をし。
ヴィヴィも健闘の甲斐あって、両者の総合計の得点差は たったの0.21だった。
たかが0.21。
されど0.21だ。
新たな技の取得に挑戦し、調子の安定しなかった昨年でも優勝した、GPファイナル。
15歳から続いていた優勝は、結局6連勝で途絶えてしまったのだ。
薄い胸の内とは対照的に、軽い到着音が鳴り。
ぽっかりと口を開いた大きなエレベーターに、するりと身を滑り込ませる。

