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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     

「だ、だって。私の代わりに、あんなに呑んで……っ」

 そう申し訳無さそうに続けるのは、今大会の勝者――ヴィヴィアン・リー。

 丈の長いチャイナドレスが良く似合う彼女の言葉に、ヴィヴィは やっと何に対して謝られているのか判った。

「あ~~、あんなの、全然。朝飯前なんだけど?」

 へらへら笑いながら男前な返事をしたヴィヴィは、グロスを手にしていた手を振る。

 実は、2時間前から執り行われていたクロージング・バンケットの席で、リーはISUのお偉いさんに、酔っぱらって絡まれていた。



『素晴らしかった! 今大会に華を添えてくれて、私も鼻高々だよ~。さあ、遠慮せずにどんどん飲んで!』

 フランス語で捲し立てるハゲおやじに、酒が強そうな見た目のリーは英語で、

『アルコール駄目なんです』

と苦笑いで断っていた。

 同じテーブルの米国の関係者が、やんわりとその場を取り繕うとする中、全然 譲る気の無い酔っ払いに、

 とうとう隣のテーブルに居たヴィヴィが、業を煮やし。

『ドリさ~ん。私、のど乾きました~~っ』

 空のシャンパングラスを手に立ち上がったヴィヴィに、標的を瞬時に替えたハゲおやじ。

『お~~、ヴィヴィ! FS感動したよ~~』

 細長いグラスにドバドバ注がれるシャンパンを、薦められるままに呑み干し。

 その呑みっぷりに感動したお偉いさんを、今度はヴィヴィが酌し続け。

 その結果、酔い潰れて早々にバンケット会場を後にしやがった。

(かっこ悪……)



 ヴィヴィのアルコール限界は、下記の通り。

 シャンパン or 赤白ワイン・フルボトル 

 1本 → 笑う・少し饒舌になる

 2本 → 髪を撫でたがる・甘える・キス魔になる
 
 3本 → 泣く・拗ねる・くだをまく・寝る

 なので、たったグラス4杯くらいでは、どうってことないのだ。

『それ位飲めないと、ここの家の子は務まらないよ』

 16歳の妹に対し、22歳の長兄も忠告していた様に、

 ヴィヴィは篠宮家の “酒呑み遺伝子” をもれなく受け継いでいた。

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