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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     

「あれ? どこかに出掛けてたの?」

「ん? ああ、フランス支店の支店長と、ディナーに行って来た」

「……かっこいい……」

 薄水色のシャツに焦茶の水玉ネクタイは、兄の端正な顔立ちを爽やかに惹き立て。

 濃紺に焦茶のウィンドウペン(窓みたいな格子状チェック)がシックなスーツは、

 9頭身の逞しい体躯から滲み出る色気を、一部の隙も無くぴっちりと覆い隠していた。

 それが余計に禁欲的で、常よりも5割増しに匠海を色っぽく見せてくれる。

「俺のスーツ姿なんて、毎日見てるだろう?」

 確かに匠海は毎朝(英国では前日の夜)、Skypeで電話をくれるのだが。

「だって……上半身だけなんだもん」

 兄のPCカメラは残念なことに毎度、腹から上しか映し出してくれないのだ。

 回線越しの匠海は、もちろん美しく素敵な男だが。

 目の前の匠海には、ちゃんと体温がある。

 匂いがある。

 自分に触れてくれる掌がある。

 触れられる躰がある。

 細い指先が、その存在を確かめる様に、頬から顎の輪郭を辿り。

 そして、きっちりと絞められた焦茶のネクタイで止まる。

「おいで……」

 兄に促され、長い脚の間に収めていた華奢なそれらで、スーツのスラックスが皺になるのも構わず腰上に跨れば、

 ミニスカート越しに感じる張りのある太ももの筋肉に、うっとりしてしまう。

(なんて、素敵な男なんだろう……)

 タイを緩めれば、男らしい咽喉仏がより明瞭になり。
  
 ボタンを外してシャツの襟を両側に開けば、兄だけの香りが魅惑的に立ち昇る。

 吸い寄せられる様に顔を近付け、首筋に細い鼻を埋めれば、くすぐったかったのか「ふっ」と笑い声が降ってきた。

 滑らかな肌に舌を這わせれば、逞しい躰がひくりと震えるのが嬉しくて。

 跡が残らない程度に吸い付き、甘噛みすれば、

「はは。子猫にハムハムされてる気分」

 明るい声を上げて吹き出した匠海に、ヴィヴィは少しむっとした。

(なにさ……。どうせ、私は下手ですよ、色々と……)

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