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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
リビングの時計を見れば、別れの時間は刻々と迫っていた。
その頃になってようやく、ヴィヴィは “本当に兄に言わねばならない事” を口にした。
「あの……。ごめんね……?」
「ん?」
「……1位、なれなかった……」
終えたばかりのGPファイナルの結果を詫びた妹に、兄は驚いた様子で見降ろしてくる。
「なんだ。そんな事、気にしてたのか?」
「………………」
「2位だって胸を張れる結果だし。そもそも、結果だけが全てじゃないだろう?」
匠海はそう囁きながら、頭を撫でてくれたけれど。
正直なところ、ヴィヴィにはそれは詭弁にしか聞こえなかった。
「俺はFSしか観戦出来なかったけれど、お前が今出来る全力で戦った事はすごく伝わったぞ? 頑張ってる姿、とても素敵だった。俺には、ヴィクトリアが誰よりも輝いて見えたんだからな?」
「……でも……。せっかく、12月の忙しい中、観に来てくれたのに……」
きっと多忙な匠海の事。
日々の業務に支障が出ぬ様、残業や休日出勤で、渡仏時の仕事をカバーしてくれたのだろう。
そんな苦労を掛けているのに、遠く離れたこの地に駆け付けてくれた兄の前で、
自分は本来の滑りとは懸け離れた、情けない姿を見せてしまった。
「……ヴィクトリア。顔を上げて?」
そう促されても、懺悔の念が深過ぎて、顔を上げられなかったヴィヴィ。
片手で頬を包まれ上を向かされれば、心配そうに自分を見下ろしている切れ長の瞳と目が合った。
「1年前の事、憶えているか?」
「え……?」
兄の問いが思い当たらず、軽く首を傾げれば。
「昨年度のGPファイナル……。ヴィクトリアは確かに優勝したけれど、俺は正直、それどころじゃなかった」
「………………?」
昨年のGPファイナルは、苦戦していた新たなチャレンジ――2nd三回転ループが見事に決まり。
自他共に認める、素晴らしい滑走内容だった筈なのに。