この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     

 不思議そうな妹の細い掌を取り上げた匠海は、悲痛な面持ちで続けた。

「FSで、お前の手が切れて……」

「……あ……」

 兄のその指摘で、ヴィヴィはようやく、匠海が何に対して心を痛めているかを察知した。



 1年前のちょうど今頃。

 FSの滑走中、エッジで手を切ってしまい。

 演技後半、右手が血まみれだった。

 ただ滑っている最中は、頭の中で緻密な計算を繰り広げており。

 更にはアドレナリンが出ていたので、痛みなど感じなかったのだが。
 
 ラスト。

 腹にナイフを突き立てる振付でフィニッシュし、その両手を覗き込んだ時になって初めて、

 ヴィヴィは自分の掌が血まみれである事に気付いたのだ。



「………………」

(あの時……、私は “無上の歓び” を覚えていた……)

 切り裂きジャックに刺され無様に犬死する、娼婦に落ちぶれたLULU。

 本当に自分がLULUになれた気がして。

 これで “自分を殺せた” 気がして――



「俺は……生きた心地がしなかった」

 兄の声に、はっと我に返ったヴィヴィ。

 目の前の兄が6歳下の自分に縋る様に、股の間の身体を抱き寄せてくる。

「貧血で倒れるんじゃないか、気が気じゃなかった。本当に心配したんだぞ……?」

「……ごめん、なさい……」

 何とも言えない表情を浮かべ、とりあえず謝罪を述べれば。

「それに、あの時、お前……」

 どこか言いにくそうに、言葉を止めた兄に「え?」と促せば、

「……いや、何でもないよ」

 何故か匠海は、言葉を濁してしまった。

「とにかく、俺は今回のFSを無事に滑り終えてくれただけで、それだけでも安堵したし、ヴィクトリアの姿が見れて幸せだった」

「……う、ん」

「誇りに思った。お前が懸命に闘っている姿……。本当にその場にいられて光栄だと思ったよ」

 真っ直ぐに自分を見つめ、心の内を語ってくれた匠海に、

 薄い胸が少しずつ軽くなっていくのを感じていた。

「……おにぃちゃん……」

/1163ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ