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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
リビングの戸口にぐったりと凭れ掛かった男――ダリル・フォスター。
少し癖のある金色の前髪の下、せっかくの美しい緑の瞳がまるで死んだ魚の様に澱んでいた。
「おかえりなさい、ダリル。お疲れだね?」
ビーズクッションから腰を起こしたヴィヴィが、空になったマグカップを手にダリルへと近付いて行く。
「あ゛~も゛ぉ~っ フェロー(教員の称号)が、「なってない!」とか言い出して、これでもかとエッセイ出してくれちゃってサ!」
よろよろとリビングのソファーへと脚を運ぶ同居人は、どさりと音を立てて広い座面に突っ伏してしまった。
「ご愁傷様……」
こちらも立ち上がったクリスが、軽く肩を上げながら労いの言葉を掛ける。
ダリルは同大学の生化学(分子細胞学)の2年生。
オックスフォード大学の教育を特徴づけ、その高い学問的水準を維持し続けている理由は、
チュートリアルシステム(個人指導方式)による授業にある。
各カレッジでは、全ての学生に担当の指導教員(チューター)がつき、毎週与えられたテーマについてリサーチし、
エッセーを書いてチュートリアルに臨むのだが。
ダリルを見て分かる通り――半端なく大変らしい。
「じゃあ、今日は私がディナーを――」
そうヴィヴィが発した途端、
「いやっ ア、アタシが作るから!」
ダリルがソファーから顔を上げ、焦った様子で止めに入る。
「え? でもダリル、目の下にクマ出来てるよ? ちょっと仮眠とれば?」
自分の瞳の下を指さすヴィヴィに、
「う゛、アタシの美貌がぁ……。で、でも、アタシが作る。っていうか、お願いっ 作らさせて下さいぃ~~っ!」
どこか可愛らしいその顔の前で、必死にお祈りのポーズをされれば、ヴィヴィも折れるしかない。
「う、うん。そこまで言うのなら……」
ダリルがいつも使用している、(男のくせに)ふりふりレースの付いたエプロンに伸ばしかけていた手を引っ込めた。
この屋敷の管理は執事であるリーヴ1人に任せている為、彼が休暇を取る週に1回は、使用人がいない日が出来る。
大体、食事はダリルが作り、双子が掃除等の細々したことを担当していた。