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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
英国に戻ったヴィヴィは翌日から、チームスタッフと一緒に、戦える身体を取り戻す事に注力した。
更に、大学は休みに入ったとはいえ、学ぶべき事・学びたい事は幾らでもあり。
カレッジの図書館での独学、JCR(ジュニア談話室)での座談会・対話等にも精力的に参加し。
そして ちょっと疲れたら、屋敷の防音室で楽器を弄って癒されていた。
全日本選手権が間近に迫り。
先にクリスが、開催地の名古屋へと経ったその日。
独り防音室で、ぼへ~~としながらヴァイオリンを爪弾いていると、
『篠宮邸 出入禁止』令を解かれたお騒がせセレブ――フィリップ王子が入って来た。
「おや。こんな所に、レディー・シャーロックが」
「……はい……?」
無駄に顔だけは良い大男に、胡乱な瞳を向ければ。
「そんなアンニュイな表情で、ヴァイオリン掻き鳴らして。さては「俺の心をどうやって打ち抜こうか」思案中かな? 可愛らしいホームズさん?」
茶目っ気たっぷりに問うてくるフィリップに、細い肩はがっくりと深く脱力した。
「貴方は本当に前向きで、心底羨ましいわあ」
「まあ、それだけが取り柄だからねえ」
ヴィヴィの嫌味に、ふっと苦笑したフィリップ。
(自覚あるんだあ……)
まあ、フィリップは悪い人じゃない。
ちょっと自己中で、
ちょっと空気が読めなくて(読む気が無くて)、
意外にしつこくて。
あ……でも女癖は最悪だけど。
常に明るく前向きで、気持ちの良い人間だとは思う。
だから――
「フィリップ……」
「ん?」
傍に椅子を持って来た王子を仰ぎ見る。
「私、付き合ってる人、いるの」
(だから、もう、私なんかに構ってないで。祖国にふさわしい女性を、真面目に探した方が良いよ?)
ヴィヴィはヴィヴィなりに、誠意を持ってそう発したのに。
「ふうん」
「……「ふうん」って……」
全く気にしてなさそうな男の反応に、薄い唇から漏れたのは戸惑いの声音。