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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章
「せんせ~~いっ!」
細長い両腕をぶんぶん振りながら、軽やかに駆けてくるヴィヴィに、
振り返った男はその端正な顔に、満面の笑顔を浮かべた。
「お? ああ、ヴィヴィ。待ってたよ~」
物凄い勢いで飛び付いた元教え子を、しかと受け止めた長身の男――白砂 今は、
まるで “久しぶりに会った飼い主に嬉ションレベルで尻尾を振る犬” にするがの如く、
「よ~~し、よしよしよし」
と、金色の頭をわしゃわしゃしていた。
「ちょ……っ!? 待っ わあ、髪が~~っ!!」
一括りにしていた髪をぼさぼさにされ、慌てたヴィヴィが白砂から逃れた その場所は、
イルミネーションに彩られた丸の内 でもなければ、
カップルで溢れ返るディスニーランド でもなく、
はたまた、
夜景の美しい横浜港を見下ろすリストランテ でもない。
12月24日(日)
世の中は、やれ「彼氏とクリスマス♡」
やれ「イブに独りヤケ酒だっ」
と浮き足立つ中。
日本を代表するフィギュアスケーター達が集っていたのは、愛知県の名古屋市総合体育館だった。
まあ毎年の事だがら、今更感も甚だしいが――
――で。
どうしてその名古屋市総合体育館に、白砂まで居るかというと。
12月21日(木)~23日(土)に行われた、全日本選手権2023。
そのエキシビション――メダリスト・オン・アイス2023に、白砂が演奏者として招かれているからだ。
もうお忘れかもしれないが。
今年の8月頭。
帰国していた元生徒に会いに篠宮邸まで訪ねてくれた白砂に、ヴィヴィからお願いしたのだ。
生演奏を売りにしたこのショーで「白砂の演奏で、今季SP『Por una Cabeza』を滑りたい」と。
『ふうん。じゃあ、今シーズンは “俺と共演する事を最大目標” に励むこと! いいね?』
まあ、そんな元講師の命令(?)を心に、試合に励んだ訳ではないが。