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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章
こちらを熱っぽく見つめている白砂の、軽やかなピチカートに合わせ、
着氷後のフリーレッグの膝から下、挑発する様に目力強めに、カッと後ろへ蹴り上げた。
バスクラリネットの渋い音色の末――恩師の素晴らしい音色に触発され、
金色の頭の中でのみ、テノールの歌声が響き始める。
『首の差で来て
ゴール寸前 立ち止まる
気位の高い 若駒め』
バックエントランスから、ウィンドミルスピンへ。
シットスピンから軸足を変えてのパンケーキスピン。
ラストはフリーレッグを軽く頭上へ引き上げた、I字スピンで締め括る。
『返し馬の “折りの言い草” が聞えるようだ
「忘れるな兄弟よ。知ってるさな?
博打はするなって――」』
優雅な第一主題の途中から踏み始めた、ステップシークエンス。
SPのそれよりは若干簡略化しつつ、女性のしなやかさを生かした即興の振付。
そして的確に踏み分けられていく、滑らかで深いエッジワーク。
『首の差で 熱情のあの日々
男好きする からかい好きのあの女が
微笑みながら 偽りの愛を誓い
焚き火にくべるのさ
俺の恋――その全てを』
第二主題の冒頭、オケの「ザ、ザッザッザン」という音色に合わせ、
深紅のヒップスカーフを、黒グローブの両手で掴んだヴィヴィは、顎を上げながら胸を反らせ。
見得を切る様に、短いスカートを左右へとはためかす。
『首の差で負ける
そんな熱狂が 俺にもあったのさ
口付ける彼女の唇が
俺の哀しみ 全てを拭い去り
その憂いを和らげる』
ソロヴァイオリンの装飾音符と、切ない音色が引き立つ第二主題は、
アルゼンチン・タンゴの俊敏さ、切れの良さを色濃く出しながら、残りのステップを踏み分ける。
そして、リンク中央で演奏する白砂の周りを くるりと一周したヴィヴィ。
(ああ、やっぱり……。先生の音が、一番好き――)