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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章        

 うっとりと聴き惚れながらも、背後から男の腰に、細い腕を一瞬だけ絡め。

 場末のバーで行きずりの男を誘惑する娼婦の如く、思わせぶりにその場から離れていく。

 弦楽器のスピッカート(跳弓)が印象的な間奏部。

 助走から飛び上がったのは、試合よりは難度を落としたコンビネーション――3回転ルッツ+2回転トウループ

 左手は胸前、氷面と水平に掌をぴんと伸ばし、右手は架空の男とホールドを組み。

 再度、第二主題の冒頭「ザ、ザッザッザン」に合わせ、激しく前後に金の頭を振る。


『首の差で

 もし彼女が 俺を忘れるならば

 そんな人生 千度だって投げ出してやるぜ

 何の為に生きてるんだ――?』


 タンゴを踊る様に素早く駆け出し、推進力を得ると、

 アラベスクからフリーレッグの膝を掴んで行う、ケリガンスパイラルへ。

 ロッカー、カウンター、スリーと踏み分けての、3回転フリップ。

 ――は、ちょっと着氷がぐらついた(てへ)。


『首の差で 数多くの偽り

 二度と深入りしないと 千度も誓ったのに』


 最後の間奏に乗せ、フライングから入ったのは、

 上体を仰向け、フリーレッグの膝を曲げた状態で行うバトン・キャメル。

 上体を反らせたレイバックから、フリーレッグを掴み、パールスピンへ。

 赤いスポットライトの中。

 ひらひらと妖艶にはためく、真紅のヒップスカート。

 ラストは片手ビールマンで、存分に女性の しなやかさ と したたかさ を魅せつける。


『それでも

 炎の様な 彼女の唇が脳裏を過ぎり

 その瞳に 心揺さぶられたなら

 もう一度 口付けたい

 そう思ってしまうのさ』


 白砂のヴァイオリンと、オーボエ、バスクラリネット。
 
 その郷愁を誘う掛け合いの中、

 再びソロヴァイオリンの元へ舞い戻ったスケーター。

 左肩に両手を添え、その上の頬に 微かに顔を寄せたかと思えば、

 最後を締め括るオケの劇的な音色に合わせ、上半身と金色の頭を限界まで反り返し、

 そして、

 その頭部より更に上まで振り上げられた、右のスケート靴――。



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