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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章
「良い子だ。忘れてはいけないよ?」
今迄 幾度も憶え込まされた繰り言にも、妹は異も唱える事無く素直に受け入れた。
「忘れる訳ない。……ねえ、お兄ちゃん……」
「ん?」
「今日……、何の日だか、知ってるの?」
若干遠まわしに、当初の不安を口にしたヴィヴィ。
「イブ、だろう?」
匠海が即答した通り。
今日は、12月24日だ。
しかも、日曜日の――
己の肩に巻き付けられた兄の腕に、両手を這わす。
「うん、そうだよ。だから……、だから、ごめんね……」
「え?」
いきなり謝罪の言葉を口にした妹に、ガラスに映った兄は驚きの表情を隠さなかった。
「……ごめんなさい。でも……でも、嬉しいの。一緒に過ごせて……」
まさか、クリスマスを一緒に迎える事が出来るなんて、1mmも思っていなかった。
それどころか、そんな事を思う事すら赦されない気がして。
無意識に考えないようにさえしていた。
「ヴィクトリア……」
「大好き。ありがとう、来てくれて」
腕に這わせた指先に きゅっと力を込めながら、心からの感謝を口にすれば。
「俺こそ、ありがとう」
後ろから囁かれた言葉に、思わず「え?」と振り返った。
目と鼻の先にある、端正な顔。
自分と同じ灰色の瞳に宿っていたのは、
目の前に横たわる幸福に歓喜した揺らぎと、隠し遂せない懺悔の陰り。
「ありがとう……。俺に “愛すること” を赦してくれて」
「………………」
その言葉に籠められた想いに、何故か指先がツキリと痺れた。
薄い唇がふるりと震え。
そして、ゆっくりと目蓋を降ろしたヴィヴィに、降りてきた大き目の唇。
今は これ以上、何も考えたくなど無かった。
不都合な現実など、見たくは無かった。
少しずつ、深く重なり合っていく互いの唇。
何も映さぬ瞳には、目蓋の裏、
色取り取りの夜景の輝きだけが、何時までもチラついていた。