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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章    

 無意識に、己の右腕を握っていた。

 あの大きな掌。

 昔の自分の内も外も這い回った、あの兄の手。

 その熱さが忘れられない。
 
 微かに薫った兄だけの香りが、全ての匂いをも上書きしてしまう。

「……ヴィヴィ……?」

 気が付けば、左腕を誰かに掴まれていて。

 はっとそちらを振り向けば、クリスが無表情のまま首を微かに傾げていた。

「あ、なに……?」

 咄嗟に微笑みを浮かべたヴィヴィに、クリスは「食欲無い……?」と視線を妹の皿へと移す。

 せっかくのカプチーノ仕立てのポタージュが、今やその泡はぺったんこになってしまっていた。

「ううん。食べる。へへ、おなかぺこぺこ」

 丸みを帯びたスプーンを手にしたヴィヴィは、それからはまるで義務の様に出される料理を全て平らげた。

 3時間掛けてようやく終了したコース料理。

 クリスを含め、皆が皆 アルコールを口にしていて。

 食後のチーズと赤ワインを堪能し始めた頃合いを見図り、ヴィヴィは静かに席を立った。

「あれ、もしかして、リンクに行く気……?」

 クリスのその小さな問い掛けに、ヴィヴィはこくりと頷いて見せる。

「うん。だって、夜もレッスンがあると思ってたから、SPの通し、やってなかったもん」

「僕も、呑まなきゃ、良かった……。1人で大丈夫……?」

 心配そうな双子の兄に笑ったヴィヴィは、皆に辞去の挨拶をし、

 この屋敷の運転手に、昔から何かと世話になっている近くのリンクへと送って貰った。







 23時から貸切にしたリンク。

 当たり前だが、そこにいるのはたった1人だけで。

 グレーのキャミソールと、黒のレギンスを纏った華奢な肢体が、

 まるで自分の身体に鞭打つ様に、広い表面を駆け回っていた。
 
 世紀末の匂いを色濃く湛えた、難解な “バリエーション(変奏曲)”。

 一見 捉えどころのないオーケストラの音色と、氷を削る鋭い音。

 2回転アクセルを踏みきる瞬間、眉根を寄せたヴィヴィが、そのまま着氷した右足で3回転ループを踏み切る。

 が、やはり、

 その直感通りに回り切れず、氷に叩き付けられる左半身。

「―――っ」

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