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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章    

 それでもすぐに立ち上がり、演技後半2本目のジャンプ――3回転ルッツへの助走に入るその姿は、どこか鬼気迫っていて。

 最後の3回転サルコウを降りた流れ、ステップ・シークエンスへと入っていく頃には、

 その表情は、明らかに殺気立っていた。


 
 殺せ。

 殺せ。

 “自分” を殺せ。
 
 昨シーズン、あんなに何度も自分を殺したのに、

 まだ、足りないって言うの?
 
 何度も何度も何度も何度も。

 自分を殺して。

 壊して。

 自分の全てを粉々にして。

 木端微塵にして。

 あんなにも踏み固め、心の奥底に押し留めてきたのに。

 なのに。
 
 それでも足りないというならば、 

 もう自分は、

 他にどうすればいいのか、解らない――。



 ラスト、フライングからの足換えコンビネーションスピンを回り切り、

 一瞬途切れた音色。

 そして、間髪入れずに響いたのは、

 甲高い女の悲鳴と、劇的なオーケストレーション。

 リンク中央、

 自分の薄い腹に 組んだ両腕を振り下ろしたヴィヴィは、膝から氷の上へと崩れ落ちる。

 項垂れた紙の様に白い顔の前、

 己の血が滴る臓腑を掲げるかの如き振付で、静止し。

 やがて、

「~~~っ ……うぅ……っ」

 氷の上、両手と両膝を付いたヴィヴィが、

 空調の音だけが響く、静まり返ったそこで、

 嗚咽を零して泣いていた。




 ◇◇◇




 2022年 5月15日(日)。

 渡英して2週間が経ち、英国での生活拠点も整った頃。

 ヴィヴィはある事に頭を悩ませていた。

「何をやるかは、決まったの?」

 カメラ越し、そう尋ねて来るのは、NHKの三田ディレクター。

 同局の密着――“プロフェッショナル・ 仕事の流儀” の取材の為に、わざわざここオックスフォードまで訪れていた。

 本当は日本のメディアなんてこりごりで、2つ返事で断ったのに。

 15歳の頃に世話になった「三田だけが密着するから」と言われれば、彼女の顔を立てない訳にはいかなくて。 

「SPは……、振付師も決まってる……。でも、FSは曲は決まってても、振付師が見つからなくて……」

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