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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章
冒頭の1音を鍵盤に振り下ろした瞬間から、防音室の空気は張りつめていた。
打弦楽器であるはずのピアノに、まるで打楽器の如く鍵盤を打ち弾けば、
漆黒の木枠から上がるのは、あまりにも硬質な響き。
不恰好に折れ曲がった指先が、神経質に鍵盤の上を跳ね回る。
ひたすら鍵盤に打ち込む後ろ姿は あたかも、
丹精込めて創ったばかりの粘土細工を、一心不乱に殴り崩しているかの様だった。
金の前髪の陰、何も置かれていない譜面台を睨み上げる、濁った灰色の瞳。
忙しなく交差する両の腕。
それから程無くし、
右の拳が振り上げられたかと思えば、
それは常軌を逸したかのように、白黒の鍵盤へと叩き落とされた。
セルゲイ・プロコフィエフ作曲
ピアノ・ソナタ 第6番 イ長調 作品82
元はといえば、ロシアの作曲家 ショスタコヴィッチに、双子の兄 共々はまっていたのだが。
同時期・同国で活躍した作曲家――プロコフィエフにも、興味を持つに至ったのは自然なこと。
ロシアもの には、寝ても覚めても脳裏から離れない強烈な吸引力があり、
ヴィヴィも それに魅了された1人だった。
無駄を一切そぎ落とした、緻密な構造と特徴的なリズム。
不協和音の不思議な心地良さ。
水晶の如く凝縮された美しいフレーズが幾つも連結され、創り上げられていくソナタ。
研ぎ澄まされた構成美を持つ旋律に触れる度、背筋にぞくりと何かが這い上がり。
共振する小さな頭蓋骨。
その内では、脳の幹細胞達が自己融解を始め、
どろりとした無色透明の不凍液へと変容していく――
そんな錯覚に耽っていた。
――――
※ピアノ・ソナタ 第6番 イ長調 作品82
↓好みの演奏
https://www.youtube.com/watch?v=_7M61ZE2SWQ
↓殴ってるの解る演奏
https://www.youtube.com/watch?v=UwcM606Ahes