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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章
だから、
「怒りなら、俺にぶつければいい」
固い声でそう放った匠海に、ヴィヴィはきょとんとした。
「……怒り……?」
思っていたよりも掠れた声が出て。
微かに首を傾げつつ、白昼夢から強引に目覚めさせられた寄る辺無さに、
戸惑いを浮かべた瞳が ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
「俺に腹を立てているから、そんなに粗い演奏をするんだろう?」
左の手首を掴んだままの兄の言葉に、当惑が深まる。
(……粗い演奏? おかしいな、いつも通り なんだけど……)
更に もう1つ。
小さな頭の中に芽生えた疑問は、舌に乗ってまろび出た。
「どうして私が、お兄ちゃんに怒るの?」
「………………」
その “問い” に大きな掌には力が込められたが、その他は 一瞬 切れ長の瞳が揺らいだだけで。
返事を寄越さぬ匠海を真っ直ぐ見据えたヴィヴィは、躊躇なく “答え” を提示した。
「私は “愛人” だもの」
「違うっ」
即座に否定した匠海に、灰色の瞳に浮かんだのは失望の色。
「ううん。違わないよ」
掴まれたままの左腕を やんわりと解こうとした妹に、珍しく焦燥を滲ませた兄が言い縋る。
「もうこれ以上、子供は作らない。最初から「互いの家督の為に、絶対に2人は作る」と、瞳子と取り決めていた。だから――」
「そう。でも、そんなこと、私には関係ない」
「………………」
相手の必死の説明を遮ったヴィヴィは、興味を削がれた様に 見上げていた端正な顔から視線を離した。
弁解の余地を与えられぬ男と、
弁解の必要性さえ感じぬ女。