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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
オックスフォードの屋敷のリビング。
進退窮まった様相のヴィヴィは、深いソファーの上で三角座りをしながら、ぼそぼそ呟いていた。
例年なら、5月のゴールデンウィークを利用して振付を受けていたのに、
それが5月半ばになっても振付師が決まっておらず。
ヴィヴィは文字通り焦っていた。
「どうして?」
「……曲がセンセーショナル……、だからかな?」
自分でも少し不思議そうに、黒い頭を傾げたヴィヴィ。
「え? 何々? 何をやるの?」
興味津々にカメラを向けてくる三田を一瞥し、
「……オペラの、『LULU(ルル)』……」
自分の白い両膝頭の間、そこに言葉を吹き込む様に曲名を口にした。
「……知らないわ」
「でしょうね……。マニアック、だから」
三田の反応にも、ヴィヴィは当然とばかりに頷く。
アルバン・ベルク作曲、オペラ『LULU』。
そのストーリーを端的に説明すると――
魔性の女ルルが、さまざまな男女を誘惑しては破滅させ、その命を奪い。
最後には自らも娼婦に身を落とし、ロンドンの “切り裂きジャック” に殺され、
その生涯を閉じるオペラ。
①ゴル博士(1人目の夫)
ルルと画家の浮気現場を目撃。心臓麻痺で死亡
②画家(2人目の夫)
ルルの過去を知り、ショックで自殺
③シェーン博士(ルルの養父 兼 愛人、3人目の夫)
ルルに自殺を強要し、逆に銃殺
④アルヴァ(シェーン博士の息子)
ルルの売春客の黒人により撲殺
⑤ゲシュヴィッツ伯爵令嬢(同性愛者)
娼婦殺しで有名な “切り裂きジャック” により刺殺
少なくとも上記の5名が、ルルに巻き込まれ、運命に翻弄されて命を落としている。
ただそれだけのオペラであれば、「絶対にFSに使いたい」と固執したりしなかった。
ヴィヴィは、ルルと自分との類似点を見出し、
そして、
その “犬死する最後” を今の自分になぞっていた。
――――――――
※切り裂きジャック:1888年に英国に現れた連続猟奇殺人鬼
被害者は売春婦5名、バラバラにされ臓器の持ち去りもあった