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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章
「明日は5時に起床予定でございますね?」
白手袋に包まれた手は流れる様な所作で、目の前のティーカップへ琥珀色の液体を注いでいた。
「そうなの。朝しか練習出来ないしね~」
黒のハイピングが効いた白ガウンから覗いた手が、大事そうにカップを包み込み。
薄い唇で「ふ~ふ~」と水面を冷やしたのち、暖かなそれをコクリと飲み下した。
オートストロー(オーツ麦)とブルーヴァイオレット(ニオイスミレ)のブレンドティー。
英国で留守を預かる自分の執事が、様々な気分に合わせ持たせてくれたもの。
特にオートストローは、カルシウムとマグネシウムが豊富で。
添付されていた説明書きの効能は、
“突然の又は慢性的な不安、落ち込み、ストレスや神経衰弱、滋養強壮”
儚い湯気が立ち上るそれをコクコクと半分空けたヴィヴィに、五十嵐が続ける。
「今夜は とても冷え込むそうですよ」
「そうなんだ~。じゃあ雪が降ったら、ホワイトクリスマスだね?」
ガウンのフードをすっぽり被った頭を上げ、嬉しそうに灰色の瞳を細めれば。
傍に控える執事の顔には、まるで未成年の少女に向ける様な柔らかな微笑が浮かんだ。
「ええ、お嬢様。どうぞ暖かくしてお休み下さいね」
執事が茶器を手に退室すれば、白のインテリアで統一されたリビングには静寂が下りる。
しかし、
白のフードを被った頭の中には沈黙は無く、雑念が渦巻いていた。
少し伸びた前髪の陰、黒々とした長い睫毛が鬱陶しそうに、二度三度と瞬きを繰り返す。