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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第11章
自分の中に吐き出された 数億もの命は、
いつも無意味に 私から流れ落ちていく。
兄と躰を重ねた年月では、自分のほうが勝っている筈なのに。
けれどあの人は、子を身籠った。
お兄ちゃんの子供を。
愛している男の赤ちゃんを。
未来への希望を。
二人の愛の結晶を。
両家の血を継ぐ者を。
周りから祝福され、褒められ。
これからの数ヶ月、
日々自分の中で育つ愛しい存在を慈しむのだ。
どれだけ躰を繋げても、
兄のすべてを受け止めても、
「愛している」
そう互いの心を確かめ合っても、
全てが まやかしだったと霞んでしまうほど、
その事実は、ヴィヴィの心を粉々にした。
退けられた両腕。
遮りの無くなった視界の先、
愕然と自分を見下ろす男に、掛けてあげられる言葉は一つしかなかった。
「……ごめん、なさぃ……っ」
「………………」
二の句を告げられぬ兄に対し、妹の口からはもう堪え切れぬ気持ちが溢れ出す。
「ごめんなさいっ ごめんなさいっ!!」
私が悪いの。
何もかも、私が全て悪いの。
「ヴィクトリア……?」
貴方にこんな顔、させたくなど無かった。
見たくなど無かった。
「……もう……無理……」
「……――っ」
ふと緩められた手首を掴む掌を、やんわりと振り解き。
うっそり身を起こしたヴィヴィは、震える手で肌蹴ているガウンの胸元を握り締める。
「もう、無理、です……。私には “愛人” なんて、無理……」
「ヴィクトリア……」
「お願い……。もう、耐えられない」
この胸を掻き毟る苦しさは、
もう1人では抱えきれないものになっていた。
「……嫌だ……」
「………………っ」
「いやだっ 俺は、お前を手放したくなんてない」
そう言い募る匠海の主張は当然のもの。
『私をお兄ちゃんの愛人にして下さい』
自分から懇願したその関係性を、勝手に途中で放棄しようとする女相手に掛けられる言葉としては、
全然 優しいものだとさえ思う。