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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
「振付師が見つからない っていうのは?」
「………………」
三田の問いに急に黙りこくった、ヴィヴィの視界の先。
サンルームに寝そべっている、クリスのしどけない姿が映り込む。
カメラがあろうがなんのその。
常と変らぬお気に入りの定位置で、巨大ビーズクッションに埋もれて日向ぼっこしている双子の兄の姿。
それに、どこか勇気付けられ。
「今まで3人の振付師に依頼して、全部 断られました」
そう真実をありのままに口にした。
「えっ!? ヴィヴィちゃんの振付を断る振付師なんて、いるの?」
心底驚いた様子の三田に、ヴィヴィは肩を竦めて見せる。
「そんなの、一杯いますよ。そりゃあ……。曲も曲……だし」
しかし、次いで唇から零れてしまったロシア語は、あまりにも早口で。
『五輪であんな無様な結果になった自分に関わりたくないってのもあるんじゃないですか?』
それは微かな呟きだったにも関わらず、
「ヴィヴィ……っ」
すぐに硬い声を上げて妹を窘めてきたクリス。
双子の常ならぬ様子に、三田は間に挟まれながらも冷静で。
「……今のは、言い過ぎました。そうじゃないな……「違う曲だったら受ける」って言ってくれてました。3人が3人とも」
肩の強張りを解きほぐす様に、黒い頭をぐるりと回したヴィヴィは、そう言い直した。
「でも、ヴィヴィちゃんはどうしても『LULU』をやりたい?」
「うん、これがやりたい……。っていうか、これじゃないと無理……。滑れない」
黒髪を掻き上げつつ語る横顔は、酷く思い詰めたもので。
「………………」
「だから何としてでも『LULU』をやります。そうですね……最悪、振付師が見つからなかったら、自分で振付します」
「……僕がしようか?」
クリスの助け舟とも取れる発言に、大きな灰色の瞳が細まる。
「ふうん……。双子共同振付でも、いいかも?」
ニコリともせず、冗談を口にしたヴィヴィ。
「あ、それ、見てみたいわ!」
その三田の反応は、無知ゆえの無責任なものだ。