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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第12章
羽毛の様に自分を包み込んでくれる、懐かしい男の香り。
それは鼓動を早める事は無く。
それどころか、不安定だった心拍数を、徐々に穏やかなものへと落ち着かせてくれた。
ふと脳裏に過ぎった、19歳だった自分に贈られた言葉。
『いくらでも抱き締めますし、
いくらでも頭を撫でて差し上げます。
躰を繋げなくても、慰める、
痛みを共有する方法は沢山ありますよ』
(朝比奈は……嘘……吐かないもん……)
英国へ戻って来られた。
自分のあるべき場所に帰って来られた。
もう、誰も自分を不必要に裏切らないし、
無駄に傷付けたりなんてしない。
暖かで力強い抱擁の中、
ヴィヴィは ここ数日の嫌な緊張が、徐々に解れていくのを感じていた。
怖かったのだ。
自分はあの夜、恐怖を覚えていたのだ。
今はまだ21歳と若くて、フィギュアを現役で続けているけれど。
後数年で引退して、年を取って。
その時になって
「貴方の子供を――」と
望んでしまう自分が いるのではないかと――
宥めているようにも、励ましているようにも感じられた、背中を撫でてくれる暖かな掌。
「……お嬢様」
「ん……なぁに?」
「また少し、痩せられましたか?」
「……ぎくり」
なんて鋭いのだろうと、若干 怯えていると。
「ディナー、愉しみにしていて下さいね? 特製お子様ランチをご用意致しましょう」
双子が元気の無い時、体調が優れない時に執事が作る、栄養たっぷり(ただし量が多い)の料理の数々を思い出し、苦笑したヴィヴィ。
「ふわぁ~~い」
目が覚めた時、それらが自分を待っていると思うと、余計に眠気が増した。
「お疲れ様でした」
「うん……」
鼓膜を揺らす、心地良い声。
「無事に元気にお戻りになられて、安心致しました」
「……う、ん……」
頭を撫でくれる、優しい手。
それらを全身で感じながら、微睡の中へと沈んで行くヴィヴィは、
ここ数日で、一番深い眠りへと就く事が出来たのであった。