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第2章 　 　

　双子はそれぞれ、これまでも振付を行ってきたが、それらは自分のエキシビションで。

　唯一ヴィヴィが振付けた試合用のプログラムは、ジュニアやノービスの子達のもの。

　シニアの現役選手が試合用プロを己で振付けて高得点が取れるほど、世の中そんなに甘くはない。

　気持ちを切り替えるために、大きく瞬きしたヴィヴィ。

「ま、それは最終手段ってことで……。他の振付師にも依頼してみます――」



　その２週間後――５月２８日（土）。

　風の噂でヴィヴィが困窮していると聞きかじったらしい、振付師のジャンナ・モロゾワ女史が、

　驚くべき事に、自分から立候補して来てくれて。
　
　その翌日には、ヴィヴィは彼女の待つロシアへと旅立ったのだ。

　そうこうして、ジャンナとショーンコーチと一緒に完成させた、ＦＳ『ＬＵＬＵ』。

　初戦のＧＰシリーズ1戦目――エリック・ボンパール杯２０２２（フランス杯）。

　そこで初披露した時の反応を、ヴィヴィはまるで昨日の事の様に思い出す事が出来る。

　4分間、必死に滑り切ったリンクは、

　難解な音楽が途切れた途端、しんと静まり返り。

『日本代表、篠宮　ヴィクトリアさんの演技でした』

　そう、フランス語でのコールが入ってようやく、日の丸が多く掲げられていた客席がはっと我に返り、

　少しずつ大きくなっていく拍手の中、無表情のヴィヴィが淡々と四方に礼を贈っていた。

　正直、最初は点数が伸びなかった。

　難解な曲想に加え、「身体を痛めつけたいのか？」と首を捻らずにいられない振付。

　そして、

　新たに取り組み始めた、セカンド・ジャンプの３回転ループ。

　その回転不足の判定と、与えられなかったＧＯＥ（出来栄え点）も響き、

　ＧＰシリーズ１戦目・２戦目と、ヴィヴィは総合２位に甘んじた。



　日本のみならず、世界中でそのＦＳは話題を呼んでいた。

　ＦＳの題材となった『ＬＵＬＵ』の、スキャンダラスな内容はもちろん、

　日本に於いては　“好きなスポーツ選手”　のトップ３に毎年入っているヴィヴィが、小さい子供達に与える影響も懸念されていた。