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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第12章
視線を落としていた新聞が折り畳まれ、灰色の双眸は力無く伏せられる。
「………………」
これは今の自分じゃない。
けれど、こうありたいと思う理想像でもある。
常に笑顔で、周りに感謝の心を以て対応し。
21歳という年齢に相応しい、己の言動に責任を取れる人間。
そんな理想を目指し、ヴィヴィ自身 日々鍛錬を積んでいるつもりだ。
なのに……。
(たった、5ヶ月弱……だったのに……)
20歳の誕生日を目前に、匠海の前から逃げる様に新天地・英国へ渡った。
それからの1年3ヶ月。
ヴィヴィは長兄と逢う事は無かった。
しかし、2人が家族である現状はどうあっても変えられず。
そして不慮の事故の末、
昨年の8月から躰の関係を持ち、9月からは不倫関係に至っていた。
二度の裏切り。
二度の別れ。
だから、乗り越えられない訳が無いのだ。
かつて知ったる苦悩。
骨身に沁みて味わった喪失感。
そこから這い上がり立ち直る気力は、まだ己の中にある筈。
身体の曲線に やや沿わないシートに細い背を預け、無意識に強張らせていた肩の力を抜く。
『二度あることは三度ある』
『三度目の正直』
日本でも古くから伝わる、矛盾する ことわざ。
ベイズの定理では、
『二度あることは三度ある』
は、75%の確率で再現され、
『三度目の正直』
は、僅か25%なのだそうだ。
これからの自分がどのような人生を辿るかは、結局のところ己の判断に懸かっているということだろう。
受動的であれば前者に。
能動的であれば後者に。
だから、
ただただ “寂しい” という感情に流されて、判断を見誤るなんてことは、
絶対にあってはならぬ事なのだ。
――――
※ベイズの定理:古典的確率論の定理の一つ……らしいよ!