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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第12章
「………………はぁ?」
皇太子妃……?
自分とは縁もゆかりも無い筈の呼称に、金色の頭が微かに傾く。
最初に思い浮かべたのは、生まれ育った国の唯一未婚の男性殿下。
以前、15の時に五輪で金メダルを獲り。
招かれた皇居主催の「春の園遊会」で一度お逢いしたが、とても愛らしい容姿の11歳の殿下だった。
(あれから6年経ってるから、今は……17歳か。月日が経つのは早いねえ)
卓上のティーカップを取り上げながら、年配のご婦人さながらな呟きを漏らしつつ。
関心は目の前の紅茶へと移る。
鼻腔を擽る柑橘系の香りと、ほのかなスパイシーさ。
そして口に含めば、深い発酵を促されたアイスワインの如き、濃厚で柔らかな飲み心地。
冬の寒さに じっと耐えた茶葉――自然の力と人の手が凝縮された一杯に、
ぶっちょう面と揶揄された小さな顔に、まるで春の訪れを告げる妖精の如き暖かな笑みが浮かんだ。
「ダージリンのレイトハーベスト?」
傍に控える朝比奈に問えば、
「さようでございます。お嬢様」
銀縁眼鏡の奥、柔らかく瞳を細めた執事は恭しく頷いた。
「ふふ。素敵……❤」
賓客(?)の存在など忘却の彼方。
執事と にっこり微笑み合うヴィヴィに、一人蚊帳の外の王子は、
「だめだこりゃ……orz」と言いたげに、広い肩を竦めたのだった。
不本意ながら珍客と茶席を囲んだのち。
再度ピアノに向かったヴィヴィは、途中放棄せざるを得なかった『死の舞踏』を冒頭から弾き始めた。
が、その1分後――
「ヴィー、なんか怖い曲ばっかりだねえ?」
真摯に曲と向き合っている弾き手に対し、あまりにも真っ直ぐな感想を寄越してきた聴き手。
「………………」
(嫌なら聴かなきゃいいのにさあ……)
心中ボヤキつつ両手を止めたヴィヴィを、整い過ぎて逆に違和感を覚える男の顔が覗き込んできた。